夜勤は電車の始発すら遠い時刻に終わることがある。静寂が支配する街から、自力で脱出するための唯一の手段、それがレンタル自転車だ。それはもはや都市の新しいインフラといっても良いサービスだ。その中で俺は、赤チャリで名を馳せた「バイクシェア」と、越境してもなお俺を運ぶ「ハローサイクリング」に登録している。この二つを使い分けることは移動手段だけの話ではなく、生還を賭けた切実な戦術なのである。
凍てつく夜の道、高性能な電動アシストは音もなく加速させ、ペダルを漕ぐ足に重さを感じさせることはない。その無機質なほどスムーズな滑走は、深夜の街の静寂を深めるだけではない。それは誰も俺の行く手を阻む者のいない、まさに「King of the Road」になった気分なのだ。軽やかに夜を駆ける心地よさは、まるで世界の時間が止まったかのような錯覚を呼び起こす。国道から路地裏へ。誰に気兼ねすることもない、夜の底を滑るようなこの自由。
■ 現場で受け取った知恵:闇の中の邂逅
この「脱出路」を教えてくれたのは、ある女性の先輩隊員だった。彼女は4つのサービスを使い分ける、深夜の街を疾走する手練れだ。
ある夜、橋本のハローサイクリングのポートで同じ現場だった別の先輩隊員と鉢合わせた。街灯の下、疲れ果てた顔の彼は「こっちの方が息が長い(残量が多い)から」と、フル充電に近い車体を俺に譲ってくれた。
さらに、ハローサイクリングの「乗り始め30分は165円だが、以降15分ごとに165円が加算される」という無慈悲な料金体系を逆手に取り、30分ごとに返却と貸出を繰り返して延長料金を回避し、小銭を削り出す秘策まで伝授された。それは、困窮の中で絞り出された、生存のための「知恵」だったのかもしれない。
■ 現場で渡した知恵:年配隊員への返礼
また別の凍える夜勤の後、年配の隊員と等々力のポートで遭遇した。 自分は30分も漕げば、自宅で泥のような眠りに就ける距離。俺は迷わず、バッテリーの残った車体を彼に差し出した。 同時に、ダイソーで手に入れた「330円のスマホホルダー」を教えた。深夜の帰路、地図を見失うことは遭難に等しい。暗闇の中で指先が凍りつく前に、進むべき道だけは確保してほしかったのだ。
闇夜の直走(ひたばしり)。しかし、残されたサドルの高さや、タイヤの微妙な空気圧には、この過酷な夜を先に走った誰かの痕跡が残っていた。顔も知らない誰かと、一台の鉄の塊を使い回す。その無機質な連帯感が、今はちょうどいい。
鼻歌が俺を誘った。
【深夜の戦術:脱出のためのインフラ】
過酷な夜を共にする戦友たちへ。俺が現場からの帰還に活用しているサービスを記しておく。
「都心の機動力。こちらは都心の現場を回る戦友向けだ。残念だが、1回会員の俺には発行できる紹介コードはない。」
HELLO CYCLING – 好きな場所で返せるシェアサイクル
紹介コード:INqYhtGoHAs4
「こちらは都心だけでなく、越境できることが魅力だ(例えば川崎市→大田区)。アプリをダウンロードし、この紹介コードを入力して会員登録すると、乗車クーポン(100円分)があなたと俺の双方に付与される。俺の方は、次の現場の軍資金としてありがたく使わせてもらう。」
終電を逃した後の『足』として、あるいは絶望的な夜を切り裂くための『翼』として。 登録を済ませ、アプリの中に「予備の退路」を確保しておけばいい。暗闇の中で指先が凍りついてからでは、遅すぎる。

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